事業承継対策

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Ⅺ-1.事業承継の考え方

(1)事業承継の重要性

事業承継は、会社の経営権を後継者へ引き継がせるため、数年を要します。したがって、事業承継対策を実行しないで、急に引継ぐと色々な問題が発生します。

事業承継対策をしないと・・・

•経営者が高齢のため、意思決定や判断ができない
•後継者不在のため、従業員や役員、取引先が離れていく
•相続発生時に遺産紛争が発生する
•社内で権力闘争が勃発する

事業承継対策をしていると・・・

•経営をスムーズに引き継ぐことができる
•経営者の意志等を、後継者に伝えることができる
•従業員が安心して働ける 家族が安心して暮らせる

また、近年、経営者の高齢化がすすんでいます。経営者の引退予想年齢は平均67歳。一方で60歳を過ぎると生存率は年々低下していきます。
「事業承継はまだ早い」と思っていても、事業承継対策の実行には長期間を要します。事業承継はいつか必ず訪れます。元気なうちに、なるべく早く、重い腰をあげることが、会社を成長・発展させる秘訣にもなります。

(2)事業承継対策のステップ

事業承継をスムーズに進めるためには、おおよそ以下のステップを踏みます。

STEP① 現状の分析

STEP② 問題の把握

STEP③ 事業承継対策の立案

STEP④ 事業承継対策の実行

(3)現状の分析

事業承継を考えるに当たっては、まず、会社や経営者のおかれた現状を分析する必要があります。

現状の分析 3つのポイント

①会社の経営資源(会社の財産、収益力、従業員、株主構成等)
②経営者の財産等(経営者所有の財産、ライフプラン、家族構成等)
③後継者候補の有無とその選定

(4)問題点の把握

現状を分析して、現在および将来に発生するであろう問題点を洗い出します。
たとえば、以下のような問題点がよく見られます。
•後継者候補がいない
•会社の業績が思わしくない
•経営者所有の不動産等を会社が事業に使用している
•経営者所有の不動産等を会社が事業に使用している
•相続税を試算すると多額になった
•後継者がなかなか育たない
•会社の借入金が多い
•家族関係が複雑である
•本来、個人で所有すべき財産を会社が所有している
•相続税の納税資金が不足する

(5)事業承継対策の立案と実行

事業承継対策を立案する場合、後継者候補の有無がまず大きな問題となります。
それにより、会社を引き継がせる方法として、おおよそ『親族への承継』、『従業員等(親族外)への承継』、『M&A』の3つのパターンがあります。

☆各承継方法のメリット・デメリット

メリット デメリット
親族への承継 •従業員や役員、取引先等、会社の内外の関係者の協力を得やすい
•後継者育成等のための教育期間を確保しやすい
•自社株(会社の株式)を後継者に相続させるので、経営者が大株主となり、会社経営が安定しやすい
•親族内に適切な後継者がいるとは限らない
•後継者以外に相続人がいる場合、後継者以外の相続人への配慮が必要になる
従業員等への承継 •会社の内外から広く候補者を集めることができる
•気心の知れた者に引継げ、経営者が安心しやすい
•経営の一貫性を保ちやすい
•経営者と従業員では全く立場が違うため、後継者に強い意志と責任感が求められる。経営者の厳しい目に適う者がいない場合もある
•後継者に自社株を購入する資金がない場合が多い
•経営者個人の会社に対する債務保証等を引継げない場合がある
M&A •より広い範囲で候補者を求めることができる
•現経営者を中心とした株主が、自社株を売却することによって利益を獲得できる
•経営者が希望する条件(会社の買い取り価格や従業員の雇用等)を満たす買い手を見つけることが難しい。
•従業員等に後ろめたい気持ちになることもある(従業員等の反感)
•経営の一貫性を保ちにくい

個々の会社や経営者の置かれた状況は千差万別です。したがって、それらに最適な事業承継対策の立案と実行が必要です。
効果的な事業承継対策を実行するためには、相続税だけでなく、法人税や所得税への影響、家族や法定相続人、役員や従業員、他の株主や取引先等への配慮、そして会社財務や経営に与える影響など、あらゆる角度から総合的に判断することが必要です。
たとえば、相続税を低くすることができても法人税が増えたり、会社財務や経営に大きな影響を与えるような対策の実行は、よく考えなければなりません。

Ⅺ-2.親族への事業承継(自社株対策)

(1)注意すべき事項

「親族への承継」で注意すべき事項は以下の3点です。

事業承継の基盤作り

後継者の育成

経営者個人の財産の引継ぎ

(2)事業承継の基盤作り

・後継者候補との意思疎通や相互理解を深める。
事業承継に対する方針や計画について、社内外の関係者(親族・役員・従業員・取引先・金融機関等)から協力を得る。
・世代交代を見据えた経営幹部の構成を考え、会社組織を整備する。

(3)後継者の育成

後継者を決定すると、自分の後継者として、どのように育てるかが大きな問題となります。
教育の現場からは、自社の社内で教育する場合と社外で教育する場合が考えられますが、それぞれの目的に加え、会社や後継者等の事情を考えて育成します。

・社内教育の例

目的 方法
経験や知識の習得をさせたい 自社の各部署をローテーションさせる
経営者としての自覚を持たせたい 責任のある地位に就ける
経営理念や経営方針を引き継がせたい 現経営者が指導

・社外教育の例

目的 方法
新しい経営手法を習得させ、人脈を広げさせたい 他社へ勤務させる
経営者としての責任感・資質を確認したい 子会社や関連会社の経営を任せる
豊富な知識や広い視野を習得させたい 海外留学、セミナー等を活用する

(4)経営者個人の財産の引継ぎ

経営者自身が所有する、自己が経営する会社の株式(自社株)や不動産等の財産は、相続税等の税負担も考慮しながら、自社株などの事業に必要な財産を後継者へ集中させて引き継がせることが重要です。
しかし後継者以外の相続人への配慮も忘れないで下さい。配慮を怠ったために、遺留分の請求等による遺産争いや、果ては、会社経営を揺るがす事態になることもよく見られます。
財産の引継ぎに活用したい手法の例として、以下の項目があげられますが、税務や法務の専門知識のほか、経営に与える影響も大きいので、経験豊富な専門家へ相談するなど、十分な検討が必要です。

これを自社株対策といいます。
なお、贈与や譲渡あるいは相続等により、自社株を移転する場合、税負担を軽減するために、自社株の相続税評価額を下げながら(株価対策)、経営者の持ち株数を減らし(株数対策)、無理なく相続税を納税できるようにします(納税資金対策)。これらの対策をあわせて、自社株対策といいます。

(5)財産の引継ぎ時に活用したい手法

①生前贈与の活用

生きているうちに財産を贈ることを、生前贈与といいます。
生前贈与に課税される税金は贈与税ですが、贈与税には、『暦年課税制度』と『相続時精算課税制度』があります。
家族構成や財産の内容によって、どちらか有利な方法を選択することができますが、『相続時精算課税制度』を選択すると、『暦年課税制度』に戻ることはできません。慎重な対応が必要です。

・暦年課税制度

1月1日から12月31日までの1年間に、その年中に贈与された財産の合計に対して贈与税を課税する制度

・相続時精算課税制度

親から子への贈与にあたり、贈与時には軽減された贈与税を納付し、相続時には、贈与された財産を相続財産に加えて相続税で再計算する課税制度。

・非上場株式等に係る贈与税納税猶予制度

非上場株式等の贈与にあたり、一定要件を満たす贈与については贈与税の納税を猶予し、相続時に、贈与された財産を相続財産に加えて相続税で再計算する課税制度。

相続発生時に後述の相続税の納税猶予制度を利用することにより、実質的に贈与税の免税をすることができます。

令和5年3月までに所定の手続きをすることにより、さらに有利な制度を利用することができます(特例制度)。

②遺言の活用

遺言書を作成することで、自社株等を後継者に集中することができます。
ただし、他に相続人がいる場合は、遺留分に配慮して遺言書を作成する方がよい場合もあります。
遺留分とは相続人のために残しておくべき最小限度の財産の割合で、例えば、相続人が子供のみ3人であれば6分の1となります。たとえ、遺言書で遺産の分割がない相続人でも、6分の1は取得する権利があるということです。
なお、事前の合意など一定の手続きをあらかじめ経ていれば、この権利の行使を制限することもできます。

・自筆証書遺言

本人が、遺言書の全文・日付・氏名を自書して、押印したものです。
パソコンなどで作成しプリントしたものは自書ではありませんので無効です。

・公正証書遺言

遺言の内容を本人が公証人に伝えて、これに基づき公証人が遺言書を作成したものです。
証人2人の立会いが必要です。

③会社法の活用

会社法に規定する制度を活用することによって、後継者等に自社株を集中させ、会社経営を安定させます。
会社法に限りませんが、制度の活用に当たっては、さまざまな規制などとともに、意外な”落とし穴”もあることに注意してください。安易な制度活用は、不測の税負担の発生や最悪の場合、会社を乗っ取られる可能性もあります。

分散した株式の買取り 経営者や後継者等のほか、会社自身が買い取る(金庫株)ことができます
株式譲渡制限条項の設置 好ましくない者への自社株の売却を制限することができます。
相続人に対する売渡請求条項の設置 自社株を相続したとき、相続した株式を、相続人から会社に売却してもらうことができます。
種類株式の発行 株主総会における議決権をコントロールすることにより、経営者としての地位が安定します。

種類株式とは、株主総会での議決権や財産権等が通常の株式(普通株式)と異なる株式です。事業承継対策に活用される主な種類株式には、無議決権株式(株主総会において議決権のない株式)と、拒否権付株式(黄金株:株主総会の特定の決定事項について、拒否権が認められた株式)があります。

④非上場株式等に係る相続税納税猶予制度の活用

非上場株式等の相続にあたり、一定要件を満たす相続については発行済株式総数の3分の2までに対応す令和5年3月までに所定の手続きをすることにより、さらに有利な制度を利用することができる(特例制度)。
る相続税の80%の納税が猶予されるという特例で、全く株式を所有していない後継者が相続により全ての自社株を取得した場合、自社株に対応する相続税の約53%(2/3×80%)の支払を延ばすことができます。
ただし、相続してからも5年間は雇用の8割を維持しなければならない等の制約があります。この制約を守らなければ、相続税を納付する必要があります。免税ではないことに注意してください。
なお、令和5年3月までに所定の手続きをすることにより、相続税の納税が全額猶予される等さらに有利な制度を利用することができます(特例制度)。

Ⅺ-3.従業員等への事業承継

(1)注意すべき四項目

親族等に適任者がいないとき、役員や従業員、取引先や金融機関等から後継者を選ぶことが考えられます。
「従業員等への事業承継」で注意すべき事項は以下の4点です。

事業承継の基盤作り

後継者の育成

経営者個人の財産の引き継ぎ

経営者個人の会社に対する債務保証や担保の処理

(2)事業承継の基盤作り

・後継者候補との意思疎通や相互理解を深める。
・事業承継に対する方針や計画について、社内外の関係者(親族・役員・従業員・取引先・金融機関等)から協力を得る。親族以外の者を後継者とする場合、関係者等には相応の説明が必要であり、社外から招聘する場合は社内の反発にも注意する。もちろん、経営者の親族の意向も確認しなければなりません。
・世代交代を見据えた経営幹部の構成を考え、会社組織を整備する。

(3)後継者の育成

後継者を決定すると、自分の後継者として、どのように育てるかが大きな問題となります。
教育の現場からは、自社の社内で教育する場合と社外で教育する場合が考えられますが、それぞれの目的に加え、会社や後継者等の事情を考えて育成します。

・社内教育の例

目的 方法
経験や知識の習得をさせたい 自社の各部署をローテーションさせる
経営者としての自覚を持たせたい 責任のある地位に就ける
経営理念や経営方針を引き継がせたい 現経営者が指導

・社外教育の例

目的 方法
新しい経営手法を習得させ、人脈を広げさせたい 他社へ勤務させる
経営者としての責任感・資質を確認したい 子会社や関連会社の経営を任せる
豊富な知識や広い視野を習得させたい 海外留学、セミナー等を活用する

経営者自身が所有する、自己が経営する会社の株式(自社株)や不動産等の財産は、自社株などの事業に必要な財産を後継者へ集中させて引き継がせることが重要です。
どのような財産を引き継ぐかは,後継者は、経営者だけでなく、相続人となる親族も含めて、よく話し合い、お互いに納得することが必要です。これを怠ると,会社経営を揺るがす事態になることもよくあります。

(4)経営者個人の財産の引継ぎ

財産の引継ぎに活用したい手法の例として、以下の項目があげられますが、税務や法務の専門知識のほか、経営に与える影響も大きいので、経験豊富な専門家へ相談するなど、十分な検討が必要です。

①MBO(マネジメント・バイ・アウト)

MBO(Management Buy-Out)とは、後継者や会社の経営幹部が、経営者が所有している自社株を買い取り、経営権を取得する方法(経営幹部による会社買収)です。
また、後継者が自社株を買い取る資金調達方法のひとつとして、経営者の能力や会社の将来性を担保に金融機関等から融資を受けたり、ファンドから融資や出資を受けることができる場合もあります。

なお、一定要件を満たせば、非上場株式等の贈与税の納税猶予制度の適用を受けることもできます。

②種類株式

種類株式とは、株主総会での議決権や財産権等が通常の株式(普通株式)と異なる株式です。種類株式を使用することで、議決権をコントロールすることができます。

・無議決権株式 … 株主総会における議決権がない株式
【使用例】
後継者以外に自社株を相続するとき、無議決権株式を相続させることで、議決権を後継者に集中させる。
・拒否権付き株式 … 株主総会の特定の決定事項について、拒否権が認められた株式
【使用例】
現経営者が黄金株を所有することで、信頼がおけるように なるまで後継者の経営をある程度おさえることができる。

(5)経営者個人の会社に対する債務保証や担保の処理

会社が金融機関等から金銭を借り入れるとき、金融機関等から、経営者の個人保証(債務保証)を求められたり、経営者の個人財産を担保として差し入れすることを求められることがよくあります。
しかし、経営者が交代したからといって、個人保証や担保が解除されることは、借入金がなくならない限りありません。
会社と経営者は一蓮托生といわれる所以ですが、現経営者にとっても後継者にとっても大きな負担です。
対策は、以下の通りです。
• 会社の借入金を減らす。
• 後継者の債務保証を軽減できるよう金融機関と交渉する。
• 保証や担保の負担に見合った報酬を支払う。

Ⅺ-4.M&A

(1)M&Aとは

M&A(Merger and Acquisition)とは、会社そのものを売買することです。
親族や従業員等に後継者がいない場合、従業員の雇用確保、取引先の維持、経営者のライフプランの実現等のために、第三者に会社を譲ることもひとつの方法です。
最近は、非上場会社においてもM&Aが一般的に見られるようになりましたが、買い手を探して成約に至るまでの道程は容易ではありません。

(2)M&Aの手法

M&Aの手法は各種ありますが、目的や希望にあった方法を選択しなければなりません。

・会社の全部を譲渡

株式の売却 自社株を売却して金銭等を取得します
合併 自社株を売却して金銭等を取得します
株式交換 買い手の会社の子会社になり、自社株に代えて買い手の会社の株式を取得します

・会社の一部を譲渡

会社分割 会社の事業の一部を他社へ譲渡して、他社の株式を取得します
事業譲渡 会社の事業の一部を他社へ譲渡して、金銭等を会社が取得します

(3)M&Aのステップ承継

STEP① 仲介機関の選択

STEP② 売却条件の検討

STEP③ 買い手会社の選定/h4>

STEP④ 買い手会社と条件交渉

STEP⑤ 買い手会社による調査(デューディリジェンス)

STEP⑥ 契約の締結と実行(クロージング)

STEP⑦ 買い手会社と条件交渉

STEP⑧ 買い手会社への協力(アフターM&A)

(4)M&Aを成功させるために

①M&Aを成功させるポイント

・M&Aは秘密裡に進行させ、関係者(役員・従業員・取引先等)に公表する時期と範囲をよく考える
・売り手会社の立場から支援できる経験豊富な専門家(公認会計士、税理士、弁護士等)に相談する
・買い手会社の調査時には、都合の悪いことでも隠し事をしない
・後も買い手会社への協力を惜しまない

②M&Aの前にやっておくこと

・セールスポイントとなる「会社の強み」の確認
・業績の向上と不要資産の処分
・経営者と会社の資産の分離(経営者が所有する会社の事業用資産の会社への売却等)
・自分がいなくても会社が機能するように、役員等への権限委譲や規定を整備
・株主の整理

Ⅺ-5.自社株対策

自社株対策は、会社の経営権の維持が前提となる。経営者が、会社を支配するために必要な数量の株式を所有しなければ、安定した経営は望めないからである。しかし大量の株式を所有すると、相続財産の評価額は高くなるので、多額の相続税が課税される。少数の株式を所有すると相続財産の評価額は小さくなり、相続税も少なくなるが、経営が不安定になる。そこで株価を下げ(株価対策)、適切な株主構成を睨みながら後継者に移転(株数対策)することを考えなければならない。
もちろん、相続人間で争うことなく相続財産を円満に分割し(分割対策)、相続税を納税する(納税対策)ことも考えなければならない。

効果的な自社株対策を実行するためには、会社の経営方針や財務内容などはもちろん、経営者の考え方や相続財産について総合的な情報を把握しなければならず、さらに、それらを踏まえ、相続税だけでなく、法人税や所得税、他の相続人への配慮、経営への影響なども勘案した総合的な対策の立案と実行が要求される。

Ⅺ-6.株価対策

株価対策は、自社株の相続税評価額を下げることにより、後継者への引き継ぎコストを抑え、引き継ぎがスムーズに行えるようにする。評価方式の理解と、対策を実行する会社の評価方法の理解が前提である。

株価対策には、以下の3つのアプローチが考えられる。

◆会社規模の調整
原則的評価方式では、会社の規模により、株価の算定方法が異なるので、会社規模を調整することにより評価額を引き下げる。
◆類似業種比準価額の引き下げ
類似業種比準価額の算定要素である配当、利益、純資産に着目して、類似業種比準価額を引き下げる。
◆純資産価額の引き下げ
純資産価額の算定要素である相続税評価額に着目して、純資産価額を引き下げる。

これらの対策の立案、実行には、税法や商法、経営等のトータルで専門的な知識が必要である。中途半端な知識で実行すると、会社の存続すら危うくなる場合がある。

Ⅺ-7.株数対策

株数対策は、経営権を維持しながら、経営者の所有する自社株を、後継者もしくは会社に好意的な株主(安定株主)に移転させる対策である。

株数対策では、移転の方法と移転先が問題になる。

移転の方法には、贈与と譲渡がある。贈与の場合、贈与税の税負担が問題である。相続税の負担と比較して、暦年課税制度における基礎控除を長期的に活用することが考えられる。譲渡の場合、譲渡所得税等の税負担と株式購入資金が問題である。前者については譲渡益の26%が所得税等となるが、後者については譲渡価額とそれに伴う資金調達を解決しなければならない。譲渡価額は、取得者が同族株主等であれば高く、同族株主等以外であれば安い価額で購入することが税務上可能である。

移転先には、後継者が最も適切であるが、後継者の資金力には限界がある。後継者以外では、他の同族、関係会社、自社(自己株式)、従業員・従業員持株会、仕入先や販売先などの取引先などが考えられ、ケース・バイ・ケースの対応が求められる。

Ⅺ-8.分割対策

中小企業の経営者は、自社株のほとんどを後継者に譲りたいと考えている。ところが、中小企業の経営者が所有する相続財産のうち自社株の占める割合が高いので、自社株の大半を後継者が相続することになれば、相続財産の多くを後継者が取得するので、他の相続人の取得する財産が少なくなる。相続人が複数いると争いが発生するケースが多い。

相続人の兄弟姉妹が、相続分について均等であるという権利意識が先行すると、後継者以外の相続人は自社株を相続するかわりに、後継者が取得する自社株の評価額に等しい財産を要求することになる。後継者は相続税のほかに、代償分割財産として他の相続人に金銭等を支払わなければならなくなる。

代償分割する金銭等の支出が困難であるからという理由で、相続人に自社株を均等に取得させたため、経営権争いに発展し、会社経営が立ち行かなくなったケースもある。

遺言書の作成はもちろん重要なことであるが、経営者は生前から、後継者以外の相続人に対しても、会社経営や自社株について理解させておくことは大切なことである。

Ⅺ-9.納税対策

中小企業の経営者は、個人資産のほとんどを会社に投入している場合が多く、会社の財務内容は良好でも、自社株以外の個人資産はあまりないケースも多い。

しかも、業績が好調な会社や資産の豊富な会社ほど自社株の相続税評価額は高くなるにもかかわらず、自社株の相続税評価額は、換金価値を表しているものではなく、担保価値も乏しい。自社株は実質的に売却が困難なため、相続が発生すると相続税の納税資金を調達できない場合が出てくる。納税資金を計画的に準備する必要がある。

自社株特有の納税対策として、退職金等の活用があげられる。死亡退職金や弔慰金は、相続税の計算において有利に取り扱われており、これを納税資金に充当する。もちろん、会社は退職金等の支払財源を確保しておかなければならないが、生命保険の加入により賄われている例が多い。

他に、自社株を会社で買い取る(自己株式)方法や、一定の要件を満たせば物納も不可能ではない。換金を容易にするために株式公開という方法もある。

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