相続の仕組み
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Ⅵ-1.相続開始後のスケジュール(前編)
相続が発生したら、どのような段取りで何をしなければならないか?
①関係者へ連絡すると同時に死亡届を役所に提出して、葬儀の準備をする。
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②通夜、葬儀。葬式費用の領収書等の整理・保管をしておく。
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③初七日法要。おおよそ、このときに、かたみ分けなどが行われる。また、遺言書の有無を確認する。自筆証書遺言があれば、家庭裁判所で検認後、開封する。
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④三十五日忌法要。香典返しはこの頃に行われる(香典返しは葬式費用に含まれない)
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⑤四十九日忌法要。この頃までに納骨などが行われる。
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⑥遺産や債務の概要を把握する。資産より債務が多ければ、相続の放棄を検討する。また、被相続人(死亡した人)と相続人の本籍地から戸籍謄本を取り寄せ、相続人を確認する。
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⑦相続の放棄または限定承認するのであれば、死亡から3ケ月以内に、家庭裁判所に申述書を提出する。何もしなければ、単純相続となる。
Ⅵ-2.相続開始後のスケジュール(後編)
⑧被相続人の所得税の確定申告は、死亡から4ケ月以内に行う。
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⑨資産や債務を調査する。全ての財産を調べるのは、思ったより時間がかかる。さらに、財産を評価しなければならない。相続税の評価額は、いわゆる「時価」と少し異なり、専門的な知識が必要な場合もある。わからないときは、税務署や税理士に相談する。
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⑩財産の分割は遺産分割協議書を作成することにより行われる。相続人全員の実印と印鑑証明書が必要。遺産分割協議書に基づき、不動産の相続登記や預貯金、 有価証券の名義書換え、相続税申告書を作成する。相続税がかかるのであれば、納税資金の準備をしておく。しかし相続税がかかるのは、被相続人12人のうち 1人である。
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⑪相続税の申告、納付は、被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署に、被相続人の死亡から10ケ月以内である。
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⑫税務調査。被相続人の死亡後2年位までが多い。ない場合もある。
おおよそ、このような段取りだが、すぐ一周忌になることも多い。
Ⅵ-3.法定相続人
法定相続分とは、民法で定めた相続分で、相続人間で分割協議する場合の基準となる。法定相続人以外の者は遺言等がないと、財産を相続できない。
配偶者は必ず法定相続人になる。配偶者の法定相続分は、遺族により異なる。
まず、子供がいれば、配偶者と子供が法定相続人になり、相続分は、配偶者が1/2、子供が(人数に関係なく各人均等に、合計して)1/2となる。
子供はいないが、直系尊属(父母、祖父母等)がいれば、配偶者と直系尊属が法定相続人になる。相続分は、配偶者が2/3、直系尊属が(人数に関係なく各人均等に、合計して)1/3となる。
子供も直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が配偶者とともに相続人になる。相続分は、配偶者が3/4、兄弟姉妹が(人数に関係なく各人均等に、合計して)1/4となる。なお、配偶者がいないと、上記の場合において、それぞれ、子供、直系尊属、兄弟姉妹が全てを相続する。
Ⅵ-4.相続の承認・放棄
相続の開始があったとき、3ヵ月以内に、相続人は単純承認するか、限定承認するか、または相続の放棄をするかの選択をする権利がある。ただし、限定承認や相続放棄は、家庭裁判所で手続をとらないと、単純承認したものとみなされる。
単純承認は、被相続人の財産も債務もすべて無制限に承継する。限定承認は、相続財産がプラスの場合は受け取るが、マイナスの場合は受け取らないという条件付きの相続の承認の意思表示で、相続人全員で一緒に行う。
相続の放棄は、被相続人の財産も債務も一切承継しない。なお、相続の放棄は、相続人各人が自由にできるが、相続財産の一部の放棄はできない。
相続を放棄すると、その相続分は他の相続人の相続分が増加したり、次順位の人が相続人となる。代襲相続(相続人の子供が相続)は起こらない。
ただし、相続税の計算における法定相続人の数には、相続を放棄しても放棄はなかったものとして計算する。
Ⅵ-5.遺言(自筆証書遺言)
自筆証書遺言は、遺言する人が、遺言の全文、日付(年月日)、氏名を自書し、押印する方法である。証人が不要で内容の秘密を保つことができ、簡単に作成できるので、よく利用される。しかし、遺言書の紛失の恐れ、要件不備による紛争の発生の可能性がある。注意すべき主な事項は以下のとおりである。
- 自書は、筆跡によって本人自身が書いたものであることが判定される。自書の判定は非常に厳格で、添手の場合には筆跡鑑定で無効となるケースも多い。ワープロはもちろん、ダメである。ただし、財産目録については自書を要しない。
- 日付は遺言能力の有無判断の基準時期を明確にするもので、複数の遺言書のある場合はその前後を決定することになる。日付は必ず自書する必要がある。
- 押印は、実印でなくてもよく、三文印・栂印も可能。
- 自筆証書遺言は、遺言書の内容・方式について法に従い作成されているかどうか調べる必要があるので、相続発生後、開封する前に家庭裁判所の検認が必要である。
- 法務局に自筆証書遺言を保管してもらう制度が令和2年7月に創設されたが、この制度を利用した場合、家庭裁判所の検認は不要である。
Ⅵ-6.遺言(公正証書遺言)
公正証書遺言は、遺言する人と2人以上の証人が公証人役場に行き、遺言する人が遺言の趣旨を公証人に口頭で述べ、公証人が公正証書として作成する方法である。病気等で遺言する人が公証人役場に行けない場合は、公証人が自宅に来てくれる。
公正証書遺言は、保管の心配がなく、遺言の存在と内容を明確にできる反面、証人を要するので遺言の秘密が保てない、コストがかかるなどの短所もある。
署名押印は、遺言する人本人、公証人のほかに、証人にも要求される。本人は実印と印鑑証明書を持参しなければならず、証人も実印と印鑑証明書を要求されることも多い。
ところで、被相続人の死後、公正証書遺言と自筆証書遺言が出てきた場合、それぞれが有効なものであれば、どちらが優先するのであろうか?正解は、日付の最も新しいものが優先する。日付に関係なく、公正証書遺言が優先すると思っている人は多いが、そうではなく、自筆証書遺言も公正証書遺言も要件を満たす限りにおいて、効力は同じである。だから日付が重要なのである。
Ⅵ-7.遺留分
遺言等により相続人の生活基盤が失われないように、民法では、被相続人が相続人に残すべき最小限の財産を決めている。これを遺留分という。
遺留分は、原則として、法定相続分の半分である。つまり、相続人が配偶者のみの場合は、配偶者の遺留分は1/2である。配偶者と子供の場合は、配偶者は1/4、子供は1/4(人数に関係なく各人均等に、合計して)となる。配偶者と直系尊属(父母、祖父母等)の場合は、配偶者1/3、父母1/6(人数に関係なく各人均等に、合計して)である。ただし、相続人が直系尊属のみの場合、直系尊属の遺留分は1/3となる。また、兄弟姉妹に遺留分はない。
遺留分を侵害された相続人は、家庭裁判所に遺留分の減殺請求を起こすことにより権利を主張することになるが、時効は原則として、死亡から1年である。
なお遺留分を侵害した遺言でも、遺留分を侵害された相続人が、他の相続人に対し侵害された分を取り戻す権利を有するだけで、遺言書は無効になるわけではない。
Ⅵ-8.遺産分割
遺産分割は、遺言があるときは遺言に従って、ないときは相続人間の協議により行う。相続人全員の意見が一致すれば、遺言や法定相続分を無視して分割をしてもかまわない。遺産分割がまとまると遺産分割協議書を作成する。
相続人間で話がまとまらない場合は、家庭裁判所へ分割を請求することができる。請求には、遺産分割の調停の申立てと審判の申立ての2通りがある。調停は相続人同士の話合いで解決しようとするもので、調停がうまくいかず審判によるときは、法定相続分を基準に分割することになる。
ところで、遺産分割の方法には、現物分割、換価分割、代償分割がある。
現物分割は、遺産そのものをわける方法で最も多く使われる。換価分割は、遺産を売却した代金をわける方法である。代償分割は、特定の人が遺産を取得する代わりに、遺産を取得した人自身が所有している財産を他の相続人にわける方法である。換価分割、代償分割は、所得税等が課税される場合もあるから注意が必要である。